蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 沈黙を破り、彼が口を開いた。


「これからは一緒の出勤でいいだろ」

「はい」


 全然嫌だと思っていない自分がいる。
 それどころか、うれしいとさえ思っていた。私は自分が言い出したルールを後悔し始めていたのかもしれない。

 この気持ちはまずいのだろうか?
 ふらふらと揺れる自分の心を見定めようとしていたら、隣で彼が短く呟いた。


「俺の隣にいろよ」


 思わず胸を押さえた。ツンとした甘く鋭い痛みが胸の奥を貫いた気がした。
 電車で隣に立っていろという意味に過ぎないとわかっているのに、もっと本当の、永遠の意味で言ってほしいと思ってしまった。


「……はい」


 駄目だ。
 こんな返事をするだけで、心が走り出してしまいそうになるなんて。


〝すぐ行く〟


 割れたスマートフォンの画面に残された、こんな短いメッセージを見ただけで、わけもなく涙が零れてしまうなんて。



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