蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~

 日帰り温泉の行き先は、私の希望で群馬県の伊香保温泉になった。車ならば都内からのアクセスはいいのだけど、運転ができない私は行きたいと思いつつなかなか行けなかった場所だ。

 練馬インターから関越道に乗り北上していく車の中で、私は自分のテンションの高さを隠すのに苦労していた。
 人付き合いのいい父は家族サービスより取引先と飲むことが多く、母も父と同じく自ら汗をかいて子供をレジャーに連れ出すようなタイプではなかった。私は名門の令嬢という世間のイメージとは裏腹に、いつも植物と対話しているような、地味な子供時代を送っていた。

 だから子供時代のレジャー体験が乏しいうえに恋人がいたこともないせいで、私には助手席に乗って高速道路をドライブした経験が数えるほどしかない。母は「若い子の運転は危険だから」と言って、友人たちとのドライブにあまりいい顔をしなかった。


「おお……緑の標識」

「そんなもので喜ぶ人間を初めて見た」

「悪かったわね。いろいろと化石なのよ」

「なら早いところ孵化しろよ」

「蛾みたいに言わないで」


 私の受け答えが悪いのと彼が甘くないせいで、初デートにはおよそ相応しくない会話になる。
 じゃあ甘ったるい会話を望んでいるのかといえばそうでもなくて、彼との会話は不思議に居心地がよかった。

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