蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「玉こんにゃく食べたいんですけど」

「ああ、なんでも好きなだけ食べろ」


 蓮司さんはまるで牛に餌でもやるような口調だったけれど、石段を上がる間、玉こんにゃくや湯の花饅頭に興味を示す私に付き合ってすべて一緒に食べてくれた。


「で、肝心の温泉なんですけど、どこにしましょう?」


 階段の途中にある足湯に浸かりながら、私は張り切ってガイドブックを開いた。
 ロングフレアーのスカートは失敗だったようで、膝までめくりあげていても裾が落ちて濡れてしまう。


「ちょっと持っててください」


 ガイドブックを蓮司さんに持たせ、さらにしっかりとスカートをたくし上げた。
 蓮司さんは隣で微妙に不機嫌そうな顔で足湯に浸かっている。タオルで足を拭いたりするのが面倒なのだろうか? 彼が急に不機嫌になった理由はわからないけれど、テンションが高い私は構わずはしゃいでいた。


「ここ、よくないですか?」


 彼の手にあるガイドブックをめくり、公共浴場のページを開いて見せた。開放的な屋外の岩風呂と、休憩室の大座敷の写真が載っている。


「お風呂も気持ちよさそうだし、ほら、湯上りにはこんな大座敷で寝転べるんです。いいですよね」

「よくない」

「え?」

「駄目だ」

「どうして?」

「とにかく駄目だ」

「理由がわからないんですけど!」


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