蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「試したんだ。どこまで耐えられるか。全社員と同じ目線を持てるような、上に立つに相応しい人間か。ほかの実習生とは違う意味でね。いずれは白川に帰るんだろうから。謝るよ」

「どうして? 白川に代わって私を鍛えようとしてくれたんですよね」


 そこで私はうしろを向き、彼を見つめた。

 私はいずれ白川に帰らなきゃいけないの?
 蓮司さんはそう思ってるの?

 声に出して訊こうと思ったのに、口からはなにも出てこなかった。
 いずれそうなることは自分でもわかっている。でも、蓮司さんの口から言われるのは少し寂しかった。


「……私はよそ者なの?」

「違うよ。前を向け。次は首だ」

 肩を掴まれ前を向かされる。彼の大きな手が首筋をマッサージし始めた。


「背負ってる宿命はあるだろうが、今はうちの大事な社員だ」


 黙って彼の手に身を任せる。手のぬくもりと感触が心と身体を溶かしていく。旅行という非日常がもたらしたこの親密な距離感が永遠に続いてほしいと願ってしまう。


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