蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「ただいま戻りました」


 予定時間をオーバーした午後四時過ぎ、ようやく営業企画部に戻った私は橘部長にひと声かけた。


「見学が長引いたの?」


 橘部長がやってきて私の席の隣に腰掛ける。


「ええ。宝珠待ちだったんです」

「あそこは披露宴には人気だよね。僕は翡翠のほうがシンプルでいいと思うんだけどな」


 各バンケットルームはインテリアが異なっていて、女性には暖色系で装飾的な部屋の人気が高い。翡翠の間は唯一白を基調としたシンプルな部屋だ。


「私も翡翠の間が好きです。でもカップルでしょっちゅう言い合いになってますよ。女性は宝珠、男性は翡翠」

「目の前でやられると困るよね」

「そうなんですよ。どっちの味方もできないし」

「僕たちが挙式するときは翡翠で即決だね」


 橘部長の冗談に「あはは」と笑っていると、ふと部屋の温度が二度ほど下がったような寒気を感じた。


「あ、鷹取部長。どうしました?」


 私の背後の入口から蓮司さんが入って来たらしく、それに気づいた橘部長が立ち上がった。
 いきなり飛び出した名前に私の心臓が激しく反応する。蓮司さんが営業企画部にやってくるのはとても珍しい。


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