蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「六月第四週、平日に四日間押さえられるバンケットを確認してもらえますか?」

「四日間? 大口案件ですね」


 低い声とともに私の横を濃いグレーのスーツが通り過ぎ、蓮司さんのかすかなフレグランスが微風を起こす。

 バンケットルームの予約状況はホテル事業統括部の端末からでも確認できるけれど、先ほどの母娘のように、まだ検討中ながら契約に乗り気な個人客が予約状況データの外に多数存在する。その状況は私たち営業企画部しか把握していないので、蓮司さんは確かめに来たのだろう。でもそういうときは大抵、課長が使い走りで寄越されるのに、よほど重要な案件なのだろうか?


 蓮司さんは身を屈めて橘部長のデスクに片手をつき、橘部長が開いて見せる画面を注視している。うちの社のツートップが揃う眺めは圧巻だ。
 同い年で同じ部長職なのに、なぜか蓮司さんと橘部長は互いに距離を置いている雰囲気があり、ふたりが会話しているのはかなり珍しい。


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