蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
電話を切ったあと、私はしばらく身じろぎもせず、必死で頭を整理しようと努力していた。
父の体調、親の思惑、娘としての使命感。計算ずくの親に対する反発心と、それでも確かな愛情。そして、蓮司さんへの恋心。この同棲を始めた理由。
『乃梨子が幸せになった姿をお父さんに早く見せてあげて』
『そうすれば白川は安泰でしょ』
最初に橘部長だと思い込んでお見合いに臨んだとき、私は自身の結婚と白川の利益を結びつけることに大して抵抗を感じていなかった。あのとき、私は恋をしていなかったからだ。
でも今は違っていた。家の事情も白川の利益も脱ぎ捨てて、ただ純粋に彼に想われたい。こんなことで追い込んだりしたくない。恋は恋のまま、純粋に結ばれたいのだ。
だけど家の事情はそれを許さない。そんな願いを呟いていい年齢でもない。
いったいどのぐらい時間が過ぎたのか、石のようになったままベッドに腰かけていると、ようやく玄関ドアの音が聞こえた。