蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
このホテルが建てられる前、ここら辺一帯は野原だった。春になると一面に白詰草の花が咲き、近くにある母の実家に滞在中はよく抜け出して、ここで遊んだものだ。年寄りに囲まれて育ったひとりっ子で従姉妹もあまりいなかったから、ひとり遊びに慣れていた。そこで少年時代の橘部長と出会ったのだ。
「熱いうちに飲めよ」
正面から聞こえた声で、私は回想から現実に戻った。
私の目の前にはカフェオレが置かれている。先ほど彼がオーダーした「ミルクたっぷり、デカフェ」のオーダーは私のためだったらしい。早すぎる時間に来た私には二杯目なので、デカフェは正直ありがたかった。
熱いカフェオレに口をつけ、ふと考える。
今日はお見合いだから相手に合わせる意味でコーヒーをオーダーしたけれど、カフェインに弱い私は普段もっぱらカフェオレを飲む。まさかそれを知っていての気遣いだろうか?
ところが、そんなおめでたい幻想は一瞬で終わった。彼は私の着物をしげしげと眺め、フンと笑ってこう言い放ったのだ。
「残念だったな」
彼の視線を辿って自分の肩を見た私の顔が真っ赤になった。母がこの着物を選んだ決め手──花文様のひとつに橘の花が描かれているのだ。橘家へのごますりであり、縁起担ぎでもある。
「どうしてこんな手違いが?」
一時のショック状態から復活した私は抗議を始めた。
「熱いうちに飲めよ」
正面から聞こえた声で、私は回想から現実に戻った。
私の目の前にはカフェオレが置かれている。先ほど彼がオーダーした「ミルクたっぷり、デカフェ」のオーダーは私のためだったらしい。早すぎる時間に来た私には二杯目なので、デカフェは正直ありがたかった。
熱いカフェオレに口をつけ、ふと考える。
今日はお見合いだから相手に合わせる意味でコーヒーをオーダーしたけれど、カフェインに弱い私は普段もっぱらカフェオレを飲む。まさかそれを知っていての気遣いだろうか?
ところが、そんなおめでたい幻想は一瞬で終わった。彼は私の着物をしげしげと眺め、フンと笑ってこう言い放ったのだ。
「残念だったな」
彼の視線を辿って自分の肩を見た私の顔が真っ赤になった。母がこの着物を選んだ決め手──花文様のひとつに橘の花が描かれているのだ。橘家へのごますりであり、縁起担ぎでもある。
「どうしてこんな手違いが?」
一時のショック状態から復活した私は抗議を始めた。