蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「さあ? 釣書を省略された時点で疑うべきだったな」

「まさか、わざとそう仕向けたんですか? 橘部長だと思わせるように」

「人聞き悪いな。橘部長の名前は一切言っていないはずだ。白川サイドで起きた勘違いだろう」

「…………」


 父が言ったことをよくよく思い返してみた私は沈黙した。

〝橘社長は相手の名前を出さなかった〟

 たしかに……。
 あのときの白川家の盛り上がりを思い出し、穴があったら入りたくなった。
 恥ずかしい。親子揃って、本当に恥ずかしい。

 苦し紛れにひたすらカフェオレを飲み続ける。


「で、橘部長との見合いだと思って張り切ってやってきたわけだな?」


 わかりきったことをわざわざ言わなくたっていいじゃないの。
空になってしまったカフェオレのカップを置き、開き直って彼を見据える。


「その通りです。精一杯めかしこんでね」


 挑戦的に顎を上げた私の顔面に飛んできたのは、四年前の黒歴史を彷彿とさせる嫌味だった。


「目的は?」


 また出た、この質問。私のことを打算的な女だと思っているならそれで結構だ。負けじと私も四年前と同じ調子で応戦した。


「わかってるなら、話があった段階で断ればよかったじゃないですか」


 彼の唇の端がおかしそうに持ち上がる。


「それは無理だろう。白川花壇は古くからの付き合いがある大切な取引先だ」


 よく言うよ白々しい、と内心で毒づいた。どうやら彼は私から断らせるつもりのようだ。
 そこで私はあることに気づいた。このお見合いは彼の罠かもしれない。彼は私の非礼を誘うことで、橘グループから白川花壇を排除するつもりなのだ。

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