蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「あ、使用予定ですか? 終わりましたので空けます」
橘部長が私の肩に置いた手をすぐさま外し、立ち上がった。私も立ち上がり、一礼して退出する。打ち合わせといってもふたりとも手ぶらで、少々不自然に映ったかもしれない。
でも蓮司さんの顔からは先ほどの驚いた表情は消えていて、ただいつもの冷淡な口調で「お疲れさまです」とすれ違いざまに挨拶しただけだった。
「ごめんね。白川さんの家の大事な話だったのに、後半はとんでもない話になったね」
営業企画部まで戻る道すがら、橘部長が済まなそうに謝ってきた。
「いいえ。その件はもう六月末で調整することに決めてくださったので。お時間をいただき、ありがとうございます」
笑顔で橘部長に謝意を伝えてから、私はもうひと言、付け足した。
「私の退職についてはまだ内密にしておいてください。……鷹取部長にも」
しばらく頭を整理して、冷静になってから話したかった。
橘部長は気づかわしげに私を見て、そうだね、とうなずいた。
「彼はもう人事にタッチしていないから伝わらないと思うよ。白川さんが思うタイミングで話したらいいね」
退職まであと一カ月と少し。急激な変化の中で、蓮司さんとの距離だけが変わらない。近づくかに思えたのに、彼が透明なドアを閉ざしていたと知った。
この先も近づくことはないまま、そのドアが開けられることもないまま、同棲は終わってしまうのだろうか?
橘部長が私の肩に置いた手をすぐさま外し、立ち上がった。私も立ち上がり、一礼して退出する。打ち合わせといってもふたりとも手ぶらで、少々不自然に映ったかもしれない。
でも蓮司さんの顔からは先ほどの驚いた表情は消えていて、ただいつもの冷淡な口調で「お疲れさまです」とすれ違いざまに挨拶しただけだった。
「ごめんね。白川さんの家の大事な話だったのに、後半はとんでもない話になったね」
営業企画部まで戻る道すがら、橘部長が済まなそうに謝ってきた。
「いいえ。その件はもう六月末で調整することに決めてくださったので。お時間をいただき、ありがとうございます」
笑顔で橘部長に謝意を伝えてから、私はもうひと言、付け足した。
「私の退職についてはまだ内密にしておいてください。……鷹取部長にも」
しばらく頭を整理して、冷静になってから話したかった。
橘部長は気づかわしげに私を見て、そうだね、とうなずいた。
「彼はもう人事にタッチしていないから伝わらないと思うよ。白川さんが思うタイミングで話したらいいね」
退職まであと一カ月と少し。急激な変化の中で、蓮司さんとの距離だけが変わらない。近づくかに思えたのに、彼が透明なドアを閉ざしていたと知った。
この先も近づくことはないまま、そのドアが開けられることもないまま、同棲は終わってしまうのだろうか?