蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「なにか私に隠し事ないですか?」


 すると蓮司さんは雑誌から顔を上げ、まるで汚いものでも見るような目で私を眺めた。


「今日は疑い深い妻ごっこか?」

「……なによそれ」


 唇を尖らせてスチームミルクに口をつける。
 そうやってまともに答えてくれないのだ。もし社長の息子だなんて言おうものなら、私がハイエナのように食いついてくると?

 そこで私は考えた。逆に、社長の息子だと聞いてしまったら好きだと言えなくなる。打算でお見合いする女だから、打算で彼にすり寄っていると思われるだろう。なら、いっそ今、好きって言ってしまおうか──。


 ところがそのたったふた文字のために私が大きく息を吸い込んだとき、一瞬早く彼が口を開いた。


「たくさんある」

「…………」


 彼は身も蓋もない返事で私の質問を片づけ、また雑誌を読み始めた。

〝たくさんある〟秘密のどれひとつとして、彼は私に教える気はないのだろう。不発に終わった二文字を喉の奥に無理やり押し込む。


 いいわよ。私も言わない。私の大事な秘密を教えてあげない。
 だって私の秘密にあなたは興味なんてないから。きっと言ったら瞬殺で振られるから。もう少し一緒にいたいから、こうやって隣にいたいから。


 喉に引っかかったままのふた文字を溶かすように、私はまたスチームミルクを飲んだ。


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