蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
***

 しかし、ささやかな平穏は長くは続かなかった。綾瀬花音の嫌がらせが激化してきたのだ。蓮司さんの目に届かないところでやられるだけならまだ我慢もするが、私の立場が悪くなるよう、彼女は巧妙に態度を使い分けるのだ。


「アレンジメントで実演の手元が参加者全員によく見えるよう、モニター画面を使用することもできます。ご予約いただいた宝珠の間にはその装備がございます。ただ別料金になるのですが、いかがなさいますか?」


 会場の設備仕様と料金表を示しながら私が提案すると、綾瀬花音はネイルを施した指を眺めながら興味なさそうに「結構よ」と答えた。
 でも会場は広く、後方の席からはひな壇にいる綾瀬花音の手元など到底見ることができないはずだ。


「では、近くでご覧になりたい方は前方に移動可能ということで司会に申し伝えますね」


 内心舌打ちをしつつ、こちらに顔も向けずスマートフォンを操作し始めた彼女に笑顔で代替策を告げる。
 打ち合わせは一事が万事この調子だったが、私は絶対に失敗がないよう微に入り細にわたりチェックしていた。


 ところが、見積書と計画書を届けた翌日、私は困惑顔をした橘部長に呼び出された。


「綾瀬さんからクレームがあってね。うちじゃ話にならないからといって、鷹取部長に相談があったそうだ」

「えっ、どの点でしょうか? 申し訳ありません」

「たくさんあるんだけど、まずモニター画面を設置するよう要請したのに、計画書に入っていないと」

「…………」


 私が大きく息を吸い込み、メモのために握っていたボールペンを机の上に置いたので、橘部長が苦笑した。それだけでわかったらしい。


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