蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 このときの私はなんて愚かだったのだろう?
 足を止め振り返った私は、労いや慰めの言葉をかけてもらえるのだと思っていた。
 でも冷静な表情で彼が指摘したのは、接客業としての私の姿勢の甘さだった。


「その顔のままで行くな。鏡を見ろ」


 感情が顔に出ているということだろう。いろんな意味で頭をガツンと殴られた気がした。
 当たり前の指摘だと思う。でも私は謝罪ロボットじゃない。サンドバッグでもない。一番理解してほしい彼のあまりに事務的な態度に、私は絶望すら覚えてしまった。

 こんな仕事を私にさせたのはあなたじゃないの、という非難の気持ちがどこかにある。でも、そもそも白川の人間なのに橘ホテルに潜り込んだのは私だ。


「はい」


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