蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 そうはさせるものですか。
 私はお嬢さまらしく悠然と微笑んだ。


「たしかに、結婚はビジネスですものね」


 社にたかる小バエを追い払うのが職務なら、きっとこんな台詞を言ってのける女は大嫌いだろう。 どうよ、と期待して彼を見たけれど、彼は表情ひとつ変えずにコーヒーを飲んでいて、なんの反応もない。

 焦った私は手っ取り早くこの話の収拾に入った。


「とにかく形だけは会った訳だし、これで義理は果たせましたよね? フィーリングが合わないとかなんとか適当に理由をつけて、お互いに……」

「いや、どうするかな」


 彼は腕組みをしてニヤリと笑った。手のひらで好きに転がされている感じがなんとも癪に障る。
 彼を睨みつけたあと、あちらから断らせる作戦を必死で考えながら、沈黙凌ぎに水を飲む。でも着付けが強すぎるところに水分を摂り過ぎたせいで、気分が悪くなってきた。


「顔色が悪いな」

「そっちが怒らせるからじゃないですか」

「応戦する元気はあるみたいだな」


 彼は笑って立ち上がり、「すぐ戻る」と言い残してラウンジから出て行った。
 どこに行ったのだろう? これからどうするのだろう? 早く帰って着物を脱ぎたい……。

 でも、ここから家までかなり道のりがあることを思うと気が遠くなる。電車や車に乗ると余計に気分が悪くなりそうで、その前に少しだけでも横になりたかった。


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