蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 私が午前八時に母に電話で頼んだ花と着物一式はその三時間後、橘ホテル東京の元に届けられた。母や社員たちがどれだけ奔走してくれたことだろう。入手できなかった花はバイヤーの見立てできちんと季節感を映したものに替えられていた。

 搬入口で花材の箱をワゴンに積み込み、裏通路を走り、バンケット棟五階の会場まで運び込む。優雅なサービスを提供し続けるホテルの裏側では、こうしてたくさんの人間が走り回っている。


「綾瀬様、花材が届きましたのでご確認いただけますでしょうか」


 声をかけながら控室に入ると、真っ赤な振袖姿で鏡の前に腰かけた綾瀬花音は不機嫌そうに私を睨んだ。蓮司さんの説得で一応は白川花壇に花材を調達させることを了承したものの、内心は怒り心頭なのだろう。


「注文したものがほぼ届きましたので、問題はないと思います」


 私が息を切らしながら部屋の入口にワゴンを搬入すると、彼女は面倒臭そうに立ち上がってこちらにやってきた。


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