蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 こんな騒乱があったことは微塵も感じさせず、最終日のイベントは華やかに開始時間を迎えた。

 茶道会場のメインは当然ながらお点前なので、私は会場の片隅で静かに花材と向き合っていた。
 翁草、白蝶草、姫ひおうぎ、空木、都忘れ、下野草。どれも六月のお茶花にふさわしいものだ。
 茶の湯に添えられる花は、「花は野にあるように」という教えに基づいている。華道やフラワーアレンジメントのような技巧を凝らしたものではなく、ごく素直に、自然に生けた「投げ入れ」と呼ばれるものだ。呆気ないほどの簡素さはパフォーマンス向きではなく、それぞれのお座敷に花を運び終えたらすぐに私はお役目を終える。
 でもひとつ生け終えるごとに背後で見物する外国人が増え、英語で質問も受けた。隣で行われている華道と茶花の違い、茶の湯のこと。私には専門外のこともあったけれど、わかる範囲で丁寧に答え、頃合いをみて会場をあとにした。



「綾瀬様、四日間お疲れさまでした。イベントのご成功、心よりお祝い申し上げます」


 波乱の最終日がお開きになり、私は控室で片づけに入っている綾瀬花音の元にお祝いを述べに訪れた。


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