蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 陰ではいろいろとトラブルがあったものの、表向きには大成功のうちに終わった。これだけの客を集められる彼女のカリスマ性は素晴らしい。彼女に述べた言葉に偽りはなく、私は心からの賛辞を述べた。

 彼女はまだあでやかな着物姿のままだった。さすがにほっとしたらしく、「ありがとう」と答えて紺色のスーツに戻った私に微笑みかけた。


「今夜はイベントの成功をお祝いしてもらうことになってるの。鷹取部長にね」


 私の笑顔が凍りついた。そんなことは彼から聞いていない。でも、今までだって接待先を教えてもらったこともなかったし、いつものことと言えばそうだ。

 でも、今夜は家でゆっくり話がしたかった。
 一度ぐらいは彼に労ってほしかった。最後ぐらいは……。


「彼とは今後の話をすることになっているの。絶対に逃せないわ。なんたって彼は橘ホテルの後継者ですものね」


 私は殴られたような衝撃を受けていた。

 綾瀬花音は、彼が社長の実子だということを知っている──。
 私には教えてもらえなかったそれを、彼女は教えられていたという事実。

 息もできずにいる私を残し、彼女は立ち上がった。


「今回はいろいろとありがとう。片づけはあとでうちの社員がやるわ」


 私は頭を下げるのも忘れ、ドアが閉まる音をただ聞いていた。




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