蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「あまり飲んだりしないの?」

「はい。こうしてバーで飲んだことがあまりないんです。機会がなくて」


 男性と過ごすことがなかったから、こういう方面の私の文化史はとても貧しい。そんなところも蓮司さんにはつまらなかったのだろうか。
 いや、そもそも根本的に女としての魅力の問題かもしれない。綾瀬花音の性格の悪さも知性の貧しさも蓮司さんだってよく知っているはずだ。男女の仲はそういうことに関係ないのだろう。


「大丈夫?」

「大丈夫です」


 なにが大丈夫なのか不明なまま、オウム返しに答えて微笑む。きっと彼女と蓮司さんが今夜会っていることを橘部長も知っていて、私がひとりきりにならないよう気遣ってくれているのだと思う。

 私と橘部長の前に水割りがふたつ届けられた。カクテルと違う、背が低く厚みのあるグラスを手にすると、一段ステップを上がったような気分になる。


「案外おいしいです」


 笑うと視界]が回る。これで何杯目だろう? 今までの最高記録が蓮司さんに現場を押さえられたときのカップ酒三つだから、少なくとも記録更新はしていると思う。今日だけは、意識がなくなるぐらい酔ってしまいたい。


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