蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「ちょっと! 待って待って」

「大声を出すな。ほかの客の迷惑になる」


 自由のきかない着物姿の私は、抵抗空しく部屋に突っ込まれた。


「ひどいじゃないですか! 意志確認もなしに!」


 部屋に入るなり、私は猛抗議を始めた。


「着付けができるかどうかは確認した」

「そうじゃなくて」

「まあいいからじっとしてろ。フラついてるじゃないか」


 彼はそう言いながら私の帯を解き始めた。
 重い帯が床に落ち、紐が一本解かれる。少し呼吸が楽になり、私の抗議の勢いはなぜか弱まった。私に腕を回す彼の身体は圧倒的に大きく逞しく、なんだか自分がひどく弱くなったような気分になる。彼の視線は私のみぞおちの辺りの固い結び目に伏せられている。私は慌てて目を逸らした。絶対に認めたくはなかったのに、なんて魅力的な顔だろうと素直に思ってしまったのだ。


「えらく固く結んだな」


 なにか言わなければと思うけれど、今はなにも考えられなかった。まるで催眠術をかけられたように、身体に力が入らない。

 二本目の紐が落ち、はらりと胸元が緩んだときだった。


「ベッドのスプリングを確かめるいい機会だな」


 彼の目が意地悪く笑ったのが見えた次の瞬間、私の視界はぐるんと回り、彼に抱き上げられていた。


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