蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「ははは、あいつがあんな顔するの初めて見た」


 橘部長もアルコールが回っているのか、普段の紳士的な佇まいが完全に壊れて大笑いしている。
 でも私はしばらくぼんやりと窓の外を流れるネオンを眺めたあと、涙を零した。


「綾瀬花音と一緒にいました……」

「ああ大丈夫。あいつがあの店を選ぶのはあそこガラス張りで目立つし、テーブルが大きくて襲われないからで……あ、襲われるっているのはボデイタッチね」

「でも私は彼とあんな風にお食事したことないです。お洒落なこと、全然……」


 そこまで言いかけて、私が希望しなかったことを思い出した。

 お洒落なデートの代わりに伊香保温泉で石段を登りながら玉こんにゃくを食べたこと。私が一個落としたので、彼は自分の分を一個くれたこと。湯の花饅頭のお店をハシゴして、三個目で蓮司さんがギブアップしたこと。部屋で文句を言いながら肩を揉んでくれたこと──。


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