蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 ろくに寝ていないらしい充血した目から視線を逸らす。ほかの女性と過ごした直後の彼を見たくなかった。


「おい、待て」


 彼の横を通り過ぎるとき、背後から呼び止められたけれど、私は知らん顔でずんずん歩いた。彼はたぶん出勤前にシャワーを浴び、服を着換えるために帰宅したのだろう。通勤時間帯のエレベーターホールには住民が次々と降りてくる。人の目もあるので蓮司さんは諦めたらしく、追ってこなかった。


 職場に着くと、来月以降に担当するはずだった披露宴の引継ぎなどを終え、自分のデスクの荷物を段ボール箱に詰めた。後日送ってもらうのだけど、宛先は当然ながら蓮司さんのマンションではなく白川家だ。


「昨日はありがとうございました」


 私の分のタクシー代を入れた封筒を持って橘部長の席に行く。でも橘部長は封筒を受け取ってくれなかった。


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