蜜愛婚～極上御曹司とのお見合い事情～
　家の中を周りながら、忘れ物を取りに再びここを訪れた自分と彼のやりとりを想像する。
　想像を逞しくした寸劇の中で、なぜか彼は極悪人になっていた。


＊＊＊

　勇気を出してインターホンを押し、切ない思いを胸に彼の応答を待つ私。返ってきたのはだるそうな声だった。

『ああ、お前か』

　開かれたドアの向こうで侵入を阻むように立つのは、胸をはだけたシャツ姿の彼。その背後で『きゃっ』と可愛く声を上げて彼の背中に隠れる、これまた服が乱れた女性──私の脳内映像では綾瀬花音だ。

『あのガラクタは一階のゴミ庫に運んでおいたから勝手に持っていけばいい。まだ残っていれば、の話だけどな』

　バタンと音を立て、目の前で非情に閉まるドア──。

＊＊＊


「最悪！　なんなのあの男」


　三流ドラマのような想像で勝手に腹を立て、絶対に忘れ物などするものかと気合いを入れる。



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