蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
すっかり濡れてしまった頬をとりあえず拭こうと手近にあったキッチンペーパーを──そういえばこれも忘れ物だ──ちぎろうとしたとき、玄関でドアが外れたような凄い音がした。
業者が戻ってきたのかと思い、慌てて涙を拭いた私は次に聞こえた声に凍りついた。
「乃梨子!」
それは彼の声だった。
その瞬間こみ上げたのはうれしさと、これはまずいという焦りと、振られることへの恐怖だった。
「乃梨子!」
声は揺れながら廊下をどんどん近づいてくる。足音は一度止まり、空っぽの私の部屋のドアが開けられる音がした。
今までこんな早い時間に彼が帰ってきたことはない。彼の帰宅前に姿を消す予定だったのに。こんなはずじゃなかったのに──。
咄嗟に周囲を見回し、身を隠す場所を探した。
でもキッチンにそんな場所はなく、いっそ冷蔵庫にでも入ろうかとさえ迷っているうちに足音はすぐ背後までやってきてぴたりと止まった。
ああ、見つかった……。
廊下に背を向けて身をすくめ、ぎゅっと固く目を瞑る。
業者が戻ってきたのかと思い、慌てて涙を拭いた私は次に聞こえた声に凍りついた。
「乃梨子!」
それは彼の声だった。
その瞬間こみ上げたのはうれしさと、これはまずいという焦りと、振られることへの恐怖だった。
「乃梨子!」
声は揺れながら廊下をどんどん近づいてくる。足音は一度止まり、空っぽの私の部屋のドアが開けられる音がした。
今までこんな早い時間に彼が帰ってきたことはない。彼の帰宅前に姿を消す予定だったのに。こんなはずじゃなかったのに──。
咄嗟に周囲を見回し、身を隠す場所を探した。
でもキッチンにそんな場所はなく、いっそ冷蔵庫にでも入ろうかとさえ迷っているうちに足音はすぐ背後までやってきてぴたりと止まった。
ああ、見つかった……。
廊下に背を向けて身をすくめ、ぎゅっと固く目を瞑る。