蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 半年前まで私の職場だった橘ホテル東京のロビーは以前と変わらず優雅で美しく、ゆったりと客を迎えている。去ってもなお愛着の消えない、大好きな場所。大好きな人たち。


ブライダルサロンに向かう途中には白いフェンスで被われた一角がある。そのフェンスには、白いバラやダリアに白詰草とクローバーをあしらったウェディングブーケの写真と白川花壇の文字が入ったパネルが掛けられ、今年の冬のテナントオープンを告げている。

 夏に行われたコンペでブーケ・ダンジュを含めた数社に勝ち、白川花壇が契約権を獲得したのだ。ブーケの画像はその際に使われたもので、初々しい花嫁を連想させるナチュラルさが評価を受けた。


『私、日本一素敵なお花屋さんになるの』

『いつか買いに行くよ』


 蓮司さんは敢えてコンペの選考委員に入らなかったけれど、二十年前、彼と交わした約束は奇しくも守られたことになる。


「お久しぶりね」


 白川花壇の名前を万感の思いを込めて眺めていると、背後から声をかけられた。
 この声は当分記憶から消えそうにない。

 振り返ればやはりバーミリオン。


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