蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「なんでもないです。ちょっといろいろと反省をしていて、つい」

「披露宴の? なにかあったの?」

「いえ、特には」

「今回は規模が大きかったから本当に大変だったよね。さきほど社長からも労いの言葉をもらったよ。今日は早めにあがってゆっくり休んで」

「ありがとうございます」


 少し気を取り直し、私はカップを持って元気に立ち上がった。

「プルミエにカップを返してきますね。部長ももうお飲みになりましたよね」

「ありがとう。お願いするよ」


 カップをふたつ持ち、そっと廊下を覗いて誰もいないことを確かめてから歩き始める。今日は鷹取蓮司に出くわさないよう朝からこの調子で、お昼に社員食堂に行くのも我慢したぐらいだ。


「もったいないことしたなぁ……」


 足腰のストレッチをしながらぼやく。
 ホテルに勤務してなにが役得かって、社員食堂の充実ぶりだった。材料のロスを省くためメニューはひとつ、日替わりだ。別にコース料理でも懐石料理でもないのだけど、無料であの味は素晴らしい。新鮮な野菜たっぷりのサラダがつき、デザートまで選べるのだから言うことなしだ。

 鷹取蓮司のデスクがあるホテル事業統括部の前を無事に通過すると私は緊張を解き、プルミエがある旧館エリアを目指した。とはいえあの男は神出鬼没だ。さっさと返して早く安全な営業企画部に戻ろう。彼は橘部長を仲が悪いのか、営業企画部には滅多に現れないのだ。


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