蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「披露宴、お疲れさま」

「ありがとうございます」


 顔を伏せたままぎこちなくお辞儀をする。


「……それは橘部長が?」


 そう尋ねられて渋々彼を見上げると、彼の視線は私が手にしているふたつのデミタスカップに注がれていた。


「そうです」

「ふーん……」


 彼はなにやら含みのある反応を見せたものの、それ以上はなにも言わなかった。

 薄暗い従業員通路に沈黙が落ちる。バンケット棟のバックヤードはスタッフでごった返しているけれど、事務エリアとレストランエリアをつなぐこの通路は人通りがあまりない。


「あの、昨日のことなんですけど」


 彼がなにも言わないので、私は意を決して切り出した。


「両親が受諾の連絡を入れたのでお耳に届いているかと思いますが、どうぞお気になさらず断っていただけると、こちらとしても大変ありがたいなと……」


 断ってくれとはっきり言えず、私の声が尻すぼみに小さくなる。


「俺も社長に呼ばれて返事したところだ」


 彼はそこでわざわざ言葉を止めて腕を組み、じっと私を見下ろした。無表情に見えるけれど、唇の端がわずかに上がっている。でもそこからは、彼の返事がどちらかなのかは読み取れない。


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