蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「……返事はなんと?」


 まさか受諾じゃないわよねと思いつつ恐る恐る尋ねた私は、次に聞こえた言葉に耳を疑った。


「受けた」

「そ、そんな! どうして」

「理由を訊くのか?」


 彼は嫌味ったらしく大仰に溜息をついた。


「社長に一時間近く説教されたと言えばわかるか?」

「わかりません」

「順序を守るようにとね」

「…………」


 昨夜の両親の食いつきぶりからして、返事だけではなくあの「不祥事」まで言ったのだろうか? 鷹取蓮司が説教されたということは、そうなのだろう。
 狭い廊下で彼を見上げる私の背丈が一気に縮んだ。彼は腕組みをして、黙って私を見下ろしている。


「着物を一度脱いだことが母に見破られたんです。ちゃんと事実を説明しましたけど、全然信じ
てもらえなくて、結局その、誤解を解くことができなくて……」

「よほど普段から信用がないんだな」

「ち、違いますよ! 自慢じゃないですけど私は……」


 一切男性経験がないと口走りかけて急ブレーキをかける。この男にそんな恥ずかしいカミングアウトをするのは屈辱だ。


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