蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「同棲することは社内には秘密でお願いしたいんです。鷹取部長もそのほうが都合いいですよね?」

「呼び方、名字と役職呼びはおかしくないか?」


 勇気を出して切り出したのに、彼ははぐらかすように話を別方向に曲げた。


「やることはやったのに不自然だろ」

「やや、やってないじゃないですか!」

「社長はそういう認識だけどな」


 またそれを持ち出すのか。私が睨みつけると、彼は眉を上げた。


「まあ、いずれそうなるんだし」


 なりません、と怒鳴りそうになって、私はなんとか飲み込んだ。挑発に乗ってはいけない。


「とにかく、じゃあ呼び方は名前で呼ぶことにしましょう」


 話が逸れているので、私は咳払いをして強引に元に戻そうとした。


「で、さっきの話なんですけど──」

「呼んでみろよ」


 ぐっと詰まってから顎を上げて言い返した。


「そっちこそ」

「乃梨子」


 彼は間髪入れずさらりと呼んだ。プライベートで女性を呼ぶことなど珍しいことではないのだろう。年齢からして当然だけど、それが妙に癪に障った。だって今まで一度も恋人ができたことがない私は、男性に名前で呼ばれた記憶がない。不覚にも赤くなってしまった。


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