蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
両親は知らないけれど、私は子供の頃に少年時代の橘恭平と一度だけ会ったことがある。そのときに交わした無邪気な約束は、淡い思い出として胸の奥にしまってきた。大人になり、就職して彼と再会しても、運命などと浮かれて筒井筒のような期待は抱かなかったし、彼も忘れていると思っていた。
でもやっぱり、これって運命なのかもしれない。
これまでの数年間、橘部長とは上司と部下の関係だった。たしかに私には特別優しくしてくれるけれど、雲の上の人だし、特別な意味なんてないと思っていた。でもこうやってお見合いを受けてくれたということは、もしかしたら[平林19]あのときのことを覚えていてくれたのかもしれない。そうでなくても私のことを憎からず思っていてくれて、それで機が熟すのを待っていたとか──。
「やだもう、橘部長ったら情熱的なんだから」
思わず照れて両手で顔を覆ったときだった。
「白川乃梨子」
いきなり頭上からフルネームで呼ばれ、私は椅子から浮くほど飛び上がった。明らかに橘部長の甘く優しい声ではない。こんな場所でまさかと思うけれど、聞き間違いでなければ、この声は──。
恐る恐る顔を上げた私は再び飛び上がった。その〝まさか〟だったのだ。
「た、鷹取蓮司?」
不躾にも心の中の声そのままに呼び捨てにしてしまい、慌てて口を押さえる。
でもやっぱり、これって運命なのかもしれない。
これまでの数年間、橘部長とは上司と部下の関係だった。たしかに私には特別優しくしてくれるけれど、雲の上の人だし、特別な意味なんてないと思っていた。でもこうやってお見合いを受けてくれたということは、もしかしたら[平林19]あのときのことを覚えていてくれたのかもしれない。そうでなくても私のことを憎からず思っていてくれて、それで機が熟すのを待っていたとか──。
「やだもう、橘部長ったら情熱的なんだから」
思わず照れて両手で顔を覆ったときだった。
「白川乃梨子」
いきなり頭上からフルネームで呼ばれ、私は椅子から浮くほど飛び上がった。明らかに橘部長の甘く優しい声ではない。こんな場所でまさかと思うけれど、聞き間違いでなければ、この声は──。
恐る恐る顔を上げた私は再び飛び上がった。その〝まさか〟だったのだ。
「た、鷹取蓮司?」
不躾にも心の中の声そのままに呼び捨てにしてしまい、慌てて口を押さえる。