蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 彼がキッチンに移動したので、到着から続いていた緊張をようやく解き、私は持参した紙袋とともにやれやれとソファーに腰を下ろした。


「ふぅ……重たかった」


 紙袋には熨斗をつけた洗剤セットがぎっしりと入っている。ご近所回りのために用意したものだったけれど、そこで私ははたと気づいた。

(ご近所なんていないじゃないの……)

 ワンフロア独占なんだから。というか、今時のマンションってそういう慣習はないのかもしれない。

 自分の古臭い感覚が恥ずかしくなり、私は立ち上がって周囲を見回した。紙袋をどこかに隠そうと思ったのだ。
 ところが、意外に早く彼が戻ってきた。


「それなに?」


「あの……ご近所に差し上げる洗剤だったんですけど、今時そういう慣習はないですよね。白川は田舎にあるので、つい」


 苦笑いしながらひとつの包みの熨斗を剥がした。


「自分の洗濯に使います」

「いや、熨斗はそのままでいい」


 彼がやってきてテーブルにカップを置き、私の手から紙袋を取った。


「だって使い途がないんじゃ……」

「あとで挨拶に行こう」

「どこに?」

「下の階」

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