蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
***

 こうして私たちの同棲は始まった。
 彼が私の部屋として用意してくれたのは、彼の部屋の向かいにある、対になった造りの部屋だった。あらかじめ私の荷物が入れてあり、ベッドまできちんと配置されていたところを見ると、彼は最初から別部屋のつもりだったらしい。


「それならそうと早く言ってよね」


 結局からかわれただけと知り、私は部屋で雑誌をめくりながらひとりで文句を言った。
 がっかりなんかしていない。彼が私をただ会社の要注意人物としてマークしているだけで、個人的な興味を一切持っていない様子なのが女として気に食わないだけだ。

 困るのは、興味を持たれていればその期待を裏切って幻滅させることもできるのに、無関心では幻滅させようにも攻めようがないことだ。逆に私のほうが甚大なダメージを受けていたりする。


 たとえば朝、洗面所で出くわしたとき。


『……おはよう』


 入口で立ちすくむ私に気づいてこちらを振り向いた彼のシェービング姿、たったそれだけで私はショックを受けている。男性のそういうプライベートな姿といえば、私は父しか知らない。まあ父は数に入らないのでノーカウントだ。

 家の中に男がいる衝撃。
 というか、自分が男の家にいるというスリリングな衝撃。


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