蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 それはそのあとの朝食時まで尾を引いて、向かいに座る彼の肩幅の広さであるとか、力強い指であるとか、女性とはまったく違う精悍な顔の輪郭であるとか、そういうものをちらちらと意識してしまうのだ。
 一昨日なんか、朝にシャワーを浴びたらしく上半身裸で、髪は濡れていて──。


「ああ……」


 目を瞑り記憶を振り払った。
 二十七歳バージンの清らかすぎる乙女に、あれは刺激が強すぎる。

 そのほかにもいろいろある。キッチンですれ違うときの彼の腰の位置の高さとか、高い棚の物を取ってくれるときの下アングルの顔とか。それらをあの完璧なルックスでやられるのだから、悔しいことになんでもないこともすべて実に絵になるのだ。

 別に彼に惹かれているわけではない。でも私の挙動不審ぶりで男性経験がないことがばれてしまったら、きっと足元を見られてしまう。そうなるとあちらのほうがはるかに優位だ。


 ちらりとスマートフォンの時刻表示を確かめる。夜十時、まだ蓮司さんは帰宅していない。夕飯は取引先との会食があるとのことだったので、ひとりで適当に済ませた。

 今日で同棲五日目になるけれど、一緒に夕飯を食べたのは二度だけだ。帰宅が遅いと最初に言われていた通り、やっぱりそうなんだなとぼんやり考える。都内各所の系列ホテルに外出することも多いし、地方出張もあるらしい。橘ホテル東京は彼が管轄しているうちのひとつに過ぎないのだ。あの年齢でそこまで出世しているのだから、やっぱりすごい人なのだろう。私の前ではただの嫌味男だけど。


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