蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 言い訳を並べ終えると、私は肩こりローラーで首をコロコロしながら雑誌をめくり始めた。最近温泉に行っていないので肩こりがひどい。

 読んでいるのは花の専門誌だ。今月の特集は「今注目のフラワーアーティスト」というテーマだったが、そのテーマ自体にあまり興味はなかった。主役は花であって、誰がアレンジした花だという先入観や価値づけは基本的にいらないと思うのだ。まあそんな主張は落ち目の会社の遠吠えにすぎないのだから、謙虚に勉強しなければ。そう思ってページをめくっていた手が止まった。

〝ブーケ・ダンジュの新鋭アーティスト 綾瀬(あやせ)花音(かのん)[平林71]〟

 誌面には天使の花束を意味するブーケ・ダンジュというブランド名通りの、天使のように愛くるしい顔立ちの女性が花束を抱き微笑んでいる。
 思わず呟いた。


「ついにフラワー界にデビューか……」


 綾瀬花音のことは以前から知っていた。ファッション誌の読者モデルで有名だったこともあるが、彼女は白川花壇を業界トップの座から引きずり下ろした関西基盤の新興勢力「ブーケ・ダンジュ」の令嬢なのだ。


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