蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 彼女は以前からファッション誌だけでなく花の専門誌での露出も高く、フラワーデザイナーとモデルというふたつの顔を持つ才色兼備の女性としてアイドル扱いだった。この春に大学を卒業したので芸能界に入るのではないかと注目を浴びていたが、フローリストの道を選んだらしい。

 フラワー業界にとっては喜ばしいことなのだけど、私は重い溜息をついた。急激に業績を伸ばすブーケ・ダンジュがこんなスターを前面に出してきたら、白川花壇の旗色がいよいよ悪くなるのは目に見えている。いくら花が主役だと言っても、経営の世界では理想論にすぎないのだ。

 自分のジャージを見下ろして溜息をつく。


「これじゃだめよね……」


 私がもっと華やかでスター性があったなら、白川の役に立てただろうか。娘として責任を感じてしまう。でも同時に、着飾って前面に出ることが私にできる最善ではないこともわかっていた。


 これまで白川花壇はホテル業界最大手である橘グループとの契約で大きな利益を確保してきた。しかしブーケ・ダンジュはその切り崩しを狙っていて、現に橘ホテル大阪のバンケット契約はあちらが優勢だ。次に狙うのは本丸である東京地区だろう。それを示すように綾瀬家は関西の社交界から東京にも進出し、橘家に急接近していると聞いた。だから父が焦り、今回の見合い話を取りつけたのだ。


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