蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 いっそ父の思惑のまま、蓮司さんを押し切って結婚してしまえば──。

 そんな悪い企みが心をよぎる。蓮司さんだって橘グループの若手エースだ。そうすれば白川を救えるだろうか?


「だめだめ。邪道よ」


 考えごとをやめ、写真の中の綾瀬花音が抱えている花束を真剣に眺めた。どんな作品からも学ばなければ。

 でも、しばらく眺めた末、私は首を捻った。たしかに華やかで完璧だ。幼少時から花の英才教育を受けてきただけあって、多彩な技巧が凝らされている。なのにどこか引っかかるのはなぜだろう? 魅せられないのはなぜだろう?
 そこで私は雑誌を閉じ、自分を戒めた。


 これって嫉妬じゃない? 若くて美人で、才能があって人気があって、すべてを持つ勝ち組の女性への。


 心が濁っていると生ける花にもそれが出る。嫉妬や対抗心で美しいものは生み出せないし、せっかく長い時間をかけて生長し蕾をつけた花が不憫だ。私たちは花の命に責任があるのだから。


「乃梨子、いるか?」


 そのときいきなりドアの向こう側から声が聞こえ、私は弾かれたように飛び上がった。雑誌を読みふけっている間にいつのまにか蓮司さんが帰宅していたらしい。


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