蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 花には「日表」「日裏」と呼ばれるものがある。育つ間に日差しを受けていた面が日表で、それが見る側に向くよう生けると自然のままの美しさが引き出される。
 余分な葉や花を落とし、綺麗に整えた枝を剣山に差していく。何度も視点を引いて眺め、枝の前傾角度を微調整する。差しかける桜の枝を地面から下草が見上げるように、足元は客材の菜の花を低くまとめて引き締める。


 しばらくして私は止めていた息をゆっくりと吐いた。


「完成?」

「──はい」


 彼が私の隣に並び、花を眺める。生け花は長く学んできたし、何度も師範試験を受けている。なのにそのときよりも緊張した。幻滅されなければいけないのに、褒められたいと思ってしまうのだ。


 しばらくして蓮司さんはひと言、「さすがだな」と呟いた。
 今、褒めた?
 聞き間違いかと思い、顔を上げて彼を見つめる。


「本当に花が好きなんだな」

「嘘だと思ってたんですか?」

「いや」


 蓮司さんが真顔で否定したので面食らった。


「そそ、そういう環境に生まれついただけです」


 嫌味を言ったり言わなかったり、変化球だらけだと受ける私も調子が狂ってしまう。


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