蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「口開けて」

「……え?」


 彼の方を向かされた私は、間近にある彼の目を見つめた。
 薄い部屋着越しに彼の温度が伝わってくる。彼の冷ややかで鋭い目が、今はほんの少し熱を帯びているように見え、私の背筋が震えた。

 彼の背後に広がるのは宝石を散りばめたような夜景。
 どうしてそんな目で見つめるの?
 まさかこんな油断してるときに、まさか──。


「……むぐっ」


 お見合いのときに続き、またも瞼を閉じた私の唇の隙間に押し込まれたのはチョコレートだった。


「お疲れのチョコ」


 彼は素っ気なく言い、ワインを開け始める。


「今、手を使えないだろ?」


 優しさなのか私に恥をかかせたいのかといえば、絶対に後者だ。私ったらいったい何度引っかかれば気が済むのだろうか。


「手を洗ってきますっ」


 しばらく口をモグモグさせてようやくチョコレートを飲み込んだ私は、真っ赤な顔で洗面所に逃げ出したのだった。


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