蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
嫌な予感がして、橘部長とは逆の右隣をこっそり窺う。
隣に並ぶ男性の青いシャツ、トレーを持つ長い指、袖口から覗く腕時計。それからこの濃紺のネクタイは、私の記憶が正しければたしか数時間前に朝食のテーブルの向かい側に見たような──そこまでで手がかりは十分だったのに、怖いもの見たさなのか、私は視線を上へと辿ってしまった。
(……げ)
まともに鷹取蓮司と目が合ってしまい、慌てて顔を背ける。
「橘部長はなにがお好きなんですか?」
構うものかと左隣を向き、橘部長に話しかける。我ながら声が地声より二トーンほど高い。
「食べに行くならフレンチかな。自分で作るのは無理だけど」
「あ、私フランス料理得意です」
「茄子料理だろ」
私がついた大嘘に関係があるのか、右隣の誰かの独り言は聞こえなかったことにした。
「へえ。食べてみたいな」
「橘部長にそんなこと言われたら、みんな本気にしちゃいますよ」
右隣からの視線が凄まじく痛い。でもこれでいいのだ。橘部長に未練たらたらの痛い女だと思っていただければ。
隣に並ぶ男性の青いシャツ、トレーを持つ長い指、袖口から覗く腕時計。それからこの濃紺のネクタイは、私の記憶が正しければたしか数時間前に朝食のテーブルの向かい側に見たような──そこまでで手がかりは十分だったのに、怖いもの見たさなのか、私は視線を上へと辿ってしまった。
(……げ)
まともに鷹取蓮司と目が合ってしまい、慌てて顔を背ける。
「橘部長はなにがお好きなんですか?」
構うものかと左隣を向き、橘部長に話しかける。我ながら声が地声より二トーンほど高い。
「食べに行くならフレンチかな。自分で作るのは無理だけど」
「あ、私フランス料理得意です」
「茄子料理だろ」
私がついた大嘘に関係があるのか、右隣の誰かの独り言は聞こえなかったことにした。
「へえ。食べてみたいな」
「橘部長にそんなこと言われたら、みんな本気にしちゃいますよ」
右隣からの視線が凄まじく痛い。でもこれでいいのだ。橘部長に未練たらたらの痛い女だと思っていただければ。