蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 元の姿勢に戻り、考え込む。
 白川花壇には対抗する余裕はないし、第一今から動いても間に合わない。ホテル業界でトップに立つ橘ホテルグループとイベントを共同開催すれば、ブーケ・ダンジュこそがフラワー界のトップブランドだと世間に大きくアピールできる。宣伝効果は絶大だし、これをきっかけにして橘ホテルとの永続的な契約につなげる計算だろう。


「まずいよね」

「そうですね……。でもビジネスの世界ですから仕方ないです」

「まだ検討段階だよ。社長がどう判断するか僕も心配なんだけど、祈ってるよ。白川さんにいいほうに転ぶように」

「ありがとうございます」


 橘部長に笑顔を向けたものの、私は心の中で大きな溜息をついていた。
 綾瀬花音の最近のマスコミ露出の多さは、この共催イベントを意識したプロモーションだろう。おそらくブーケ・ダンジュは彼女をイベントの目玉にするはずだ。花そっちのけのアイドルイベントのような光景が思い浮かぶ。白川花壇のことは置いておくにしても、もしそのイベントが実現したら、実作業を担当するのは私たち営業企画部だ。

 こんな皮肉な仕事があるだろうか?
 実家のライバル社を盛り上げるイベントで頑張らなくちゃいけないなんて。


「そんな顔しないで」


 橘部長に肩を優しく叩かれ、私はもう一度笑ってみせた。



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