蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
一時休戦
「その後どうよ?」
立ち食い蕎麦屋で真帆が訊く。
「親がうるさい」
「本人は?」
「変化なし」
まるで密談のような短い言葉になるのは、お互い蕎麦をすするのに忙しいからだ。
「まだ一線越えてないんだ?」
「ブッ」
あまりにタイムリーな話題で咽そうになり、私は慌てて口を押えた。
「そ、そんなわけないでしょ! そこ目指してないんだから」
「だって、よく手を出されないなと思ってさ。ひとつ屋根の下に男女がふたりきりでいるのに」
「ま、まあ私のガードが堅いからね」
言い訳が苦しい。乱れた着物姿でベッドに寝転ぼうと、可愛い部屋着でいようと、彼は私に欲情しないのだ。なんたって〝からかって本当に悪かった〟だもの。なにをするにも彼は余裕なのだ。
「で、破談に向かって順調に嫌われてるの?」
「最初から好かれてないから落ちようがないっていうか、手強すぎて攻めようがないの」
「考えようによっては鷹取部長の目的はもう果たされたんだよね。要は白川家と橘家が縁組するのを阻止したいわけでしょ? 同棲すれば、乃梨子はもうお手付きとして周知されるから」
「なるほど」
蕎麦を食べ終わった真帆の冷静な意見に私も頷く。頷きながら、なぜかちょっと胸が痛かった。