蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「おいしかったよ。接待では酒ばかり流し込んでたから。ありがとう」

「いえ……」


 蓮司さんとこんな普通の会話をしたことがないので、どう答えていいのかわからない。さっきまで沈黙が平気だったのに、途端に落ち着かなくなる。
 しばらくして蓮司さんがまた口を開く。それは意外な言葉だった。


「入社面接のとき、悪かったな」

「……へ?」


 一瞬ポカンとしたあと、憤慨して叫んだ。


「もう四年も前ですよ! ていうか黒歴史なので、思い出させないでください」

「黒歴史か」


 隣で彼が笑う。


「歴史に名を刻めて光栄だ」

「歴史じゃなくて、黒歴史です」

「あれも俺の仕事なんだよ。当時は人事だったしな」

「どうして私を合格にしたんですか? 白川への義理?」

「違うよ。怒っていても誇り高く礼儀正しかったからな」

「でも私、帰ってみたらスカートが破れてて……」


 すると彼が身体を揺らして笑い出した。よほどおかしかったらしい。


「教えてやりたかったんだがな。逃げ足の速さがすごかった」

「笑わないで!」

「わかったわかった」


 そう言いながら隣で彼はまだ笑っている。
 彼の声はいつもより少し気だるく掠れていて、ああ少し酔っているんだなと考える。彼がアルコールを顔に出すことは今までになかったから、今日はよほど嫌なお酒だったのだろう。


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