極愛恋情~敏腕CEOに愛し尽くされています~
「俺はそんなあきらめの悪い麻結が、すごくいじらしく思えたんだ」

 私の手には、当時の夢が残ってる。
 それごと私を包み込んでくれる織が、温かい。

「麻結は覚えてる?」

 頭のてっぺんに、笑みを含んだ優しい声が落ちてきた。私は織の胸に頬を寄せたまま、ぽつりと返す。

「なに……?」
「俺が一度、麻結の絵を真似て服を作ったときのこと」

 すぐに思い出せる。

 ノースリーブワンピース。肩にリボンの飾りがついて、ウエストにも同じ色のリボンを巻いた可愛めなデザインだった。

 私は自分のラクガキから飛び出してきたような、本物の洋服に魅了され、織に『すごい』って何回も言った。

 織からは、『袖のないワンピースだからなんとか作れたんだ』と、淡々と返されたことも覚えてる。

 小学生なのに、洋服を作れる織が心の底から羨ましく、同等以上に尊敬の念を抱いた記憶。
 しかも、作った服のデザインは私の絵を元にしていたのだから、感服した。

「覚えてるよ。平面で拙い私の絵を、こんなふうに再現できるんだって感動したから」
「それだけ?」
「え?」

 織はなにを思い出しているんだろう。

 彼の言いたいことが思い当たらなくて、そこでようやく私は織を見た。

「そのときの会話は?」
「会話? なんか話したっけ?」

 私が覚えているのは、無表情の中にも少し照れくささを感じさせる織と、白地の軽やかなワンピースの着心地だけ。

 織は大きな手のひらを私の顔に添え、口を開く。
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