極愛恋情~敏腕CEOに愛し尽くされています~
 織は「ふ」と笑って、掴んでいた私の手を解放する。

「麻結はずいぶん、絵がうまくなったんだな」
「は……?」

 脈絡のない話題に、この雰囲気にそぐわない素っ頓狂な声を上げてしまった。

 部屋の隅にある簡易デスクに向かう織の背中を視線で追う。

「そ、それっ……!」

 織がなにに手を伸ばしているのかピンときた瞬間、私は足を踏み出した。
 しかし、間に合うわけもなく、隠したかったものはすでに織の手中だ。

「ごめん。この間、たまたま落としてノートの中身が見えた」
「ええっ」

 慌てる私の前で、堂々とノートを捲る。

 私の秘密のノート。店舗のディスプレイを考えたりして、ときどき自分の欲しい服を描いたりもしているもの。

 要するに、アルバムに挟まっていたラクガキの延長を今でも続けているのだ。

 過去を思い返すだけでも恥ずかしいって言うのに、今現在のものまで知られるなんて、もうどんな顔していいのかわからない。

「織、やめてっ。返してよ」
「こういうところ、本当健気っていうかなんていうか」

 ノートに飛びつくや否や、織にくしゃくしゃと前髪を乱される。

 あっさりとノートを取り返した私は、まだ残る織の感触にぼうっとしていた。

「実は麻結に言ったら怒られるだろうなって思ったんだけど」

 織が自分の手帳を持ってきて、ファスナー部分を開いた。
 折りたたまれた紙に嫌な予感が過る。

「なに、それ……」

 だいぶくたびれた紙から察するに、かなり昔のメモみたい。

 ハラハラとしながら紙を開いていく織の指先を見つめる。
 中身が目に飛び込んできた瞬間、バッと顔を背けた。
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