極愛恋情~敏腕CEOに愛し尽くされています~
「それは、もうすぐフランスに戻るっていうこと……だよね」
「明後日、午前の便で移動する」
「明後日……」

 初めからわかっていた話。それでもやっぱり衝撃は拭えない。

 織は『すぐにでも』って表現しただけで、明日一緒に行こうと言う意味じゃない。そうかといって、じゃあいつ頃に織の元へ……なんて。

 フランスに行けば織はいる。とはいえ、四六時中一緒なわけじゃない。
 英語もままならないのにフランスへ……?という不安もある。

 眉根を寄せて織を見つめ、小さく首を横に振った。

「無理だよ。そんなにすぐに織のところへ行くなんて気持ちの準備もできない」

 織の顔を見るのが怖くて、ついに足元に視線を落とした。
 両手をぎゅうっと強く握りしめ、ぽつりとつぶやく。

「って言ったら、織ももうさすがに待ってくれない……よね?」

 織と恋人同士になったのはつい最近の話だけど、織はもうずっと前から私を好きでいてくれたって何度も伝えてくれた。

 そのうえ、期間もはっきりとせずに待たせるなんて……いくら温厚な織でも嫌気がさして当然。

「はは。今度は麻結が俺に『待ってて』って言うなんて。いつかのときと逆だ」

 織の笑い声に胸が鈍い痛みを覚える。

 織の立場を知っているうえで待たせるって、やっぱり酷だろうか。

 織はきっとこれからどんどん忙しくなる。今、タイミングを逃したら、次はいつになるかわからなくなるのかもしれない。

「準備って?」

 ひとこと聞き返され、ビクッと肩を上げる。
 自分のつま先を見つめたまま、震える唇を動かした。
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