極愛恋情~敏腕CEOに愛し尽くされています~
「あ。〝アヴェク・トワ〟だ」

 序盤のページで特集されていた〝アヴェク・トワ〟の文字を見て手が止まる。

 アヴェク・トワは織が所属するアスピラスィオン社のメインブランド。
 日本でも、銀座に直営店があるのは知っている。

 世界で有名なブランドなだけあって、値段もいい。
 そのため、私なんて手が出せないから、直接お店に足を運んだことはない。

 私は織にも見えるように雑誌をテーブルに置いたが、織は興味なさげに頬杖をついている。

 次々とページを進めていくと、Sakuraと書かれているのが目に飛び込んできた。

「織っ。Sakuraも載ってるよ! ほら!」

 これまでも、Sakuraが好きでウェブでも誌面でも、見つけたらうれしい気持ちになった。
 しかし、それよりもさらに心が弾んだ。

「アヴェク・トワと繋がってるからおまけで載ってるだけ。別にそんなに騒ぐことじゃないだろ」
「ええー。そんなことないでしょ。私だって一応アパレル企業に勤めているから、ファッション誌に取り上げられるのは簡単じゃないことくらい知ってるよ」

 織のドライな発言に口をとがらせる。

 私なら、もっと喜ぶのに。でもまあ、当事者っていうのは慣れるだろうし、芸能人と同じような心境なのかもしれない。
 芸能人と一緒。まさか、あの織が……。

「織は本当にすごい人になっちゃったんだね」

 無意識に口を突いて出ていた。
 卑屈な気持ちからじゃない。ただ少しだけ寂しい気持ちと、焦る思いがじわりと滲みだす。

 私もこれまで頑張ってきていたつもりだけど、織の目覚ましい飛躍を前にしたら、努力が全然足りないのかもしれない。

 今も、近くの席の女性が織をちらちら見ている。
 こんなに魅力的になった織を見ていたら、だんだん対等に接するのに気が引けてきた。

 私は雑誌を閉じて、ラックに戻す。メニューを広げて、織に笑いかけた。

「なに食べよっか」

 さっきまで普通にしていられたのに、急に自分の態度がぎこちなく感じる。

 けれども、頭でわかっていても、なかなか切り替えることはできず、織と向かい合ってご飯を食べた。
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