極愛恋情~敏腕CEOに愛し尽くされています~
 約一時間カフェに滞在して、再び外に出る。
 お腹が満たされたから、少し精神状態は落ち着いたはず。

 私は気を取り直して、織に話しかける。

「織はいつも自分の服って……」
「麻結。どうしたの」
「えっ……」

 ふいうちの指摘に狼狽する。

『どうしたの』って抽象的な言葉だ。私の複雑な心境についてじゃない可能性だってある。

「な、なに?」

 笑顔を取り繕って聞き返す。しかし織は硬い表情を崩さず、私から目をそらさない。

「ご飯食べる直前から、急におかしくなっただろ。なにがあった?」

 織の発言に度肝を抜かれる。
 まさか、本当に私の心の中の小さな変化に気がついたって言うの……?

 なんでも見透かす織が怖い。

 だって、知られていい部分ばっかりじゃないもの。
 いくら気心知れている織にだって、ネガティブな思考や醜い感情は晒したくない。

「えー? なにもないよ」

 とぼけてこのまま話をうやむやにしようと思った。
 次の瞬間、そんな些細な策略なんて吹っ飛ぶ。

 織が突然、私を正面から抱きしめたせいで。

「ちょっ、織……! ここ、外……」
「外でもどこでも構わない。麻結が本当のこと教えてくれるまで離さない」

 織にすっぽりと収まった私に、周りの人の視線は見えない。
 だけど、まだ明るい時間、人通りの多い表参道。目立っているに決まっている。
< 73 / 181 >

この作品をシェア

pagetop