極愛恋情~敏腕CEOに愛し尽くされています~
 私はパニックになって、織の身体を必死に押し返す。

「わ、わかった! 話す! 話すから!」

 羞恥心が勝って、咄嗟に本音を言うことを選択してしまった。
 私は織のジャケットの袖を掴んだまま、視線を落としておずおずと口を開く。

「急に自分が不甲斐なく感じたの。もちろん、この間井野さんに言ったように、気持ちでは負けてないつもり。……だったんだけど、実際私は、織に不釣り合いなんだなろうなあって」
「はあ?」

 不服そうな織の声に、小さく肩を上げる。

 そりゃあ、織からすれば、私は昔から変わらないから、今も前と同じような感覚でいられるんだろう。

 けれど、私は違う。織が変わりすぎてて、やっぱり戸惑う気持ちもある。

「織の才能を誇らしく思うし、活躍しているのはうれしいの。だけど、自分から見た私たちと、周りの目は違うでしょ? なんであの子って思われるの目に見えるっていうかね」

 とうとう、視界には靴しか入らなくなった。そのとき、織があっけらかんとした声で放つ。

「なんだ。そんなこと」

 私は織から手を離し、爪が食い込むくらい強く握りしめた。

「織にとっては『そんなこと』でも、私には結構大きなことかも」

 人を羨んで当たり散らすなんて、子どものすることだ。

 ただでさえ、織との差に焦ってこうなっているのに、ますます幻滅させるようなことしてる。
 自己嫌悪でいっぱい。もう周りの通行人のことなんて、すっかり忘れていた。

 強張った私の頭を、織はなにも言わず、ぽんぽんと優しい手つきで撫でる。
 いつしか、私はそのリズムに感情が静まっていく。

 少しずつ視線を上げていき、織の通った鼻筋あたりが見えたとき、織は言った。

「俺は麻結にそんな顔させるためにデザイナーになったんじゃない」

 真面目な声色に、ドキリとする。
 織の澄んだ双眼までたどり着いたら、そっと頬に手を添えられた。
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