極愛恋情~敏腕CEOに愛し尽くされています~
 あのあと目を点にしていた井野さんに、織は幼なじみだということを説明し、そそくさと百貨店を出てきた。

 いまだに信じがたいけれど、織は帰国してきたらしい。今、隣に並んでニコニコしながら歩く織を見上げて徐々に現実を受け入れる。

「この間、電話くれたときにはなにも言ってくれなかったのに」

 口をとがらせて言うと、織はクスリと笑う。

「驚かせようと思ったんだよ」

 したり顔で返され、私は頬を膨らませた。

 本当、びっくりさせられた。内緒で帰国してきたことはもちろんだけど、織の変貌ぶりに一番驚かされている。

 だって、五年前ならさわやかに『驚かせようと思って』とか言わないと思う。
 余裕が滲みでいているというか……。

「ん? なに?」

 つい織を注視していることに気づき、慌てて目を逸らした。

「ううん。なんか、ね。電話はしょっちゅうくれていたけれど、やっぱり実際会うと久々な感じするなあって」

 私はなんだか本音を言いづらくて、ごまかす。

 私と織は生まれたときから家は隣で両親同士も仲が良くて、しょっちゅう一緒にいた。
 幼稚園も小学校も高校も一緒だった。

 幼少期の織は身体が私よりも小さく気弱で、幼稚園でクラスの子が突っかかってきたときには、いつも私が織を守る役だった。

 小学校に上がってからも織は変わらず物静かな子で、人に群れない性格のまま。
 高校生になっても、私とだけ一緒にいた気さえする。

 私はそんな織を、手のかかる弟のようにずっと思っていた。

「久々だとなんだか、ちょっと照れくさいね」
「俺は平気。向こうからよく電話してたし、麻結は変わってないし」
「ちょっと。私だって社会人六年やって、大人になったと思うんだけど」
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