通信制の恋
((天野直視点))


そいつと出会ったのは、桜の花が咲き乱れ、ぽかぽかとした陽気に包まれた、入学式の日だった。


俺はその陽気に抗いもせず、その身を委ねて惰眠を貪っていた。


入学式もつまらないもので、また寝そうになるのを必死にこらえていた。


入学式も終わり、自分たちのクラスに戻ると俺は担任の先生の話に興味など湧かず、ぼけーっと空を見つめた。





そのまま眠ってしまったようで、俺は「ガタリ」という机が揺れる音で目が覚めた。


ゆっくりを起き上がると目の前には女がいて、真っ黒な髪をショートヘアにカットし、化粧もしていないだろう血色のいい頬に控えめな唇。

一言で言えば、一目惚れだった。


目を奪われてしまって、ハッとすると俺はようやく口を開いた。


「誰」


「あ、いや、筆記用具を忘れて、取りに来ただけなので…!そ、その、ごめんなさい!さようなら!!」


ヘドバン並みに頭を上下したかと思えば物凄い勢いで教室を去っていったその女は俺が一階へ降りると再び会うことができた。




重い教科書を両手で腰を落として運ぶ姿に笑いそうになるも、それを堪えて、俺も教科書の受け取りを済ませた。


その間に彼女はなんとか玄関から校門までの間を歩いていたが、それは亀並みのペースだった。


居ても立っても居られず、俺はすぐさま彼女の両手から教科書を奪い取った


「貸して」


「え、えっ…!?あの…、いいです!大丈夫です!」


「どこまで持ってくの」


「いや、あの、私の話を…」


「人の厚意を無駄にしないで。ほら、行くよ。」


そう言って俺が歩き出せば彼女は半歩後ろを付いてきた。


「んで、どこまで持っていくの。」



「…学校を出て左に曲がって、真っ直ぐ行ったとこのガソリンスタンドです…」


「ん。」


一目惚れなんて初めてだった俺は彼女と何を話していいのか分からず、黙り込んでしまった。


なにも話せない状態が数分続くと、いつのまにか彼女の母親らしき人物が立って待っているガソリンスタンドへと辿り着いてしまった。




「あら、何男の子に運んでもらったの?お礼を言いなさい!」


「あ、あの、ありがとうございました!助かりました!」


「ん、じゃ。」


母親に促されるようにお礼を言う彼女のことを直視することができず、俺はぶっきらぼうにそういうと彼女たちから離れていった。


「(あー、くそ。喋られなかった…。可愛かったな…)」


と、駅までの道のりで悶絶していた俺がいた。
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