通信制の恋
次の週の月曜日、私はひょっこりと1限のある教室を覗き込んだ。


私は先週の木曜日のあの後保険医の先生から病院での受診を勧められ、その後の体育の授業は欠席となり、仕事を切り上げてきた母親と共に病院へ向かった。


診察や検査の結果、何も異常はない、とのことでホッと一安心した私は早速その日の夜杏樹ちゃんに無事だったという主旨のメッセージを送った。


あの後杏樹ちゃんを一人にしてしまったことが心残りだったため、クッキーを焼いてきて、それを謝罪の気持ちを込めて贈ろうと思ったのだ。


それと、クッキーの袋はもう一袋…


それは天野くんの分だった。


杏樹ちゃんの話だと私を一番先に保健室に連れて行くと言い出したのが天野くんだったという。


体育の先生をも押しのけて行くその姿に杏樹ちゃんはピーンと来るものがあったのか、次の週の月曜日は覚悟しておきなさいと言われてしまった。





教室を見渡してみると、やっぱり定位置となりつつある、窓側の一番後ろの席に、彼はいた。


私は上手く机の間をすり抜け、彼の前にやってきた。


「あの、天野くん…」


机に突っ伏して眠っている彼を起こすのは忍びないと思ったのだが、いつ起きるのか分からずじまいで、今日渡せなくなるのだけは阻止したかったため、私は意を決して声を掛けた。


「ん…、あ、ゆ、黒沢さん」


「(ゆ?)あの、先週は保健室まで運んでくれてありがとうございました。病院では何も異常はないとのことでしたので…。これ、お礼に焼いたクッキーです。…甘いものダメでしたか?」



背中に隠していたクッキーを彼の前に出すと彼は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてしばらくフリーズしていた。


「あ、あの…?」


「…ああ、ごめん。ありがとう。甘いもの、好きだから。まさか貰えるとは思わなくて。」


「……っ!そ、それじゃあ!」


私は初めて彼が優しそうに微笑む姿を見て、顔に熱が集まるのを感じた

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